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やよいの奇妙な冒険 646(モJOJOJO)様


「…どう?」
「少し濃い…かな」
「…そっか」
 初佳はガックリとうなだれた。
 それを見たやよいはクスクスと笑い、
「大丈夫よ。コーヒーの入れ方なんて上手くなくても。プロじゃないんだし」
 そう言ってもう一口飲んだ。やはり砂糖を多めに入れないと、やよいには飲めない。
 だけど、とやよいは思う。
 やよいと初佳が出会ってから数週間。
 やよいが初めてここに来て、声をかけて名前を知ったのは初佳であり、それがルームメイトになれるとは。
 出来すぎていて、今でもやよいは不思議に思う。
 しかしそのルームメイトであり、親友の初佳は、そんな事を微塵にも思っていないのか、
 自分のいれたコーヒーを前にして、腕を抱えて唸っていた。
「この間は薄すぎて、今回は濃すぎる、か。なんで…豆入れるだけなのに…」
 その仕草はとてもかわいい。自分と同い年とは思えない。
 それは単にやよいが年上に見られるだけで、初佳は年相応な外見なのだが、それでもやよいはそう思う。
「でも変わってるわよね。天才的な予科生パイロットが、コーヒーのいれ方だけは下手だなんて」
 やよいは冗談めかして言ってすぐに、はっと表情を変えた。
「……天才って言わないで」
 案の定初佳は不機嫌そうな表情で言って、コーヒーを飲む。眉間に寄った皺がさらに深くなった。
「天才なんていない。町田初佳論…か」
「別にわたしの理論ってわけじゃないわ。だってそうでしょ? 私は努力して技術を磨いたの。
 そんな「才能」なんてチャチな国語的表現で、わたしを表して欲しくないわね」
「じゃあ、コーヒーをいれる技術も磨かなきゃね」
「……」
 何も言い返せない初佳はまた一口コーヒーを飲む。「苦っ」という口ぶりから、もう機嫌は直ったらしい。
 それを見てやよいはまた笑う。

 こういうやり取りをなんども繰り返していくうちに、やよいは初佳の扱いに慣れてしまった。言い方は悪いけれど。
「でも、コーヒーの味が日によって変わるなんて。その心にはなにか迷いが…!?」
「なによそれ」
「誰か好きな人とかいるのかなーなんて思ったのよ」
「いないわね」
「あら、即答」
「だってわたしにそんな暇ないもの」
「恋人が欲しいとか思ったこと無いの?」
「…無くは、ない」
「そうよね…」
「やよいは?」
「…無くは、ない、かな」
 そこまで言って、二人はまた一口コーヒーを飲んだ。
「…苦いわね」
「…努力するわ」

 時計も深夜を回り、二人はベッドに入った。
 目を閉じるとそこには闇。
 目を開けるとそこにはほんの少しの光と、それを多い尽くす程の、闇。
「………」
 寝付けない。カフェインを摂取したせいかもしれない。
「はぁ……」
「どうしたの?」
 初佳のため息。やはり眠れないらしい。
 彼女はしばらく布団の中でモゾモゾとやっていると、不意に言った。
「やよい…楽しい?」
「なにが?」
「ここでの生活」
「ホームシックにでもなった?」
「まさか」

 初佳はやよいの方を見ないままに口を開いている。
 やよいは初佳の顔を覗き見ようとしたが、部屋が暗くてよく見えなかった。
「私は楽しい。今までの人生で一番楽しい。だって、ここは、とても『生きやすい』もの」
「…初佳…?」
 誰だろう。そこにいるのは。
 やよいには、今の初佳は初佳ではないように思えた。
「選ばなくてもいいということは、とても素晴らしいことね」
 町田初佳。
 成績優秀。容姿端麗。絵に描いたような優等生。
 性格は明るすぎず、暗すぎず。たまに冗談なんかも言ってみせる。
 天才という言葉と、負けることが大嫌い。
 コーヒーが好き。でも、コーヒーを入れるのは何故か苦手。
 これが初佳。やよいの知っている、町田初佳。
 しかしこれらは一体、町田初佳という存在の何%なのだろう。
 不意に、初佳がこちらを向いた。表情は分からないが、多分微笑んでいるような気がする。
 やよいはその笑みから、何も読み取れなかった。
「やよい」
「…え?」
「私たち、友達よね」
「そんなの、当たり前…」
「友達で、入られるわよね」
 ここにはやよいと初佳しかいない。
 けれど、その言葉はやよいに向けてのものではない気がした。
 では、誰に。
「おやすみ」
 初佳はその一言と共に、布団を少し深くかぶった。

「…おやすみ」
 やよいももう寝ることにした。
 と、少し、ほんの少しの疑問がやよいの脳裏に浮かんだ。
 やよいは初佳が訓練などで勝利して、喜んだ所を見た事がない。
 決して嬉しそうな顔をしないし、機嫌がよくなるわけでもない。
 町田初佳は負ける事が嫌い。
 それは勝つことが好きであるという事とは、全く別次元のことだ。
 町田初佳は負ける事が嫌い。
 本当にそうなのだろうか。

 やよいは宇宙にいる時間が好きだった。
 ビアンカを操縦しているときの、自分は宇宙の中にいるんだという実感が堪らない。
 入学当時は少しどんくさいイメージがやよいにはあったのだが、最近ではそれも払拭されている。
 最初に比べれば実力もついて、信じられないことに上位メンバーに数えられていた。
 それがやよいには、嬉しくてしょうがなかった。
 なんだか自分が世界に認められているような気がして。
 やよいは上機嫌で、注文した日替わりランチを口に運んだ。
「機嫌いいのね」
 初佳が言った。
 自分は今そんなに舞い上がっているように見えているのか。
 少し恥ずかしくなって、ごまかし気味にコーヒーを飲んだ。
 どこにでもあるような味だが、少なくとも不味くはない。
「やっぱり、コーヒーはこうじゃなくちゃ」
「…意外と意地が悪いのね」
「冗談よ。それより」
「ん?」
「成績出たわよね。掲示板みた?」
「まだ、だけど」
 やよいは端末を取り出して、ステルヴィアの掲示板にアクセスした。
「食事が終わってからにしない?」
「少しで済むから」
 画面が移り変わり、成績の一覧が映し出される。

 もちろん予科生トップは初佳だ。それは何時も通り変わらない。
 だが。
「…!」
「ほら」
 町田初佳のすぐ下。そこには藤沢やよいの名があった。
「………」
「私、ここまで来たの」
「………」
「もう少しで、あなたに追いつける」
「………」
「あなたは、私の目標だか…」
「やよい」
「ん?」
「あなたは、なんの為にステルヴィアに来たの?」
「…初佳?」
「ごめん、なんでもない。おめでとう」
「…ありがとう」
 二人は笑い合って、食事を再開した。
 代わり映えのしないメニューだけど、今日はとても美味しく感じた。
 やっぱり初佳と友達で良かった。
 やよいは嬉しくて、楽しくて、幸せだった。

 なんの為に私はステルヴィアに来たんだっけ。
 自室のシャワーを浴びながらやよいは考える。
 少し熱めの水圧が、柔らかな体を滑り落ちていった。
 そう言えば理由なんて、ここにいる間は考えもしなかった。
 来る前は確かにあったはずなのに。
 ここでは毎日が目まぐるしく動いていて、考えるまもなく時間は進んでいった。
 だけど、もうそろそろ思い出してみてもいいんじゃないか。
 シャワーを止めた。濡れた髪から、雫が落ちる。
「私が…」

 やよいがここに来た理由、それは。
「やよい」
「ひゃっ!」
 突然後ろから声をかけられた。驚いて声を上げてしまう。
 聴きなれた声。振り返る。
「あ、初佳…?」
「……」
 初佳は答えない。
 ここはシャワー室。当然裸になるわけだが、やよいは彼女の裸体を直視できなかった。
 訓練前の着替えでは特に意識もせず見れるわけだが、
 こういう場所で二人きりとなると、どうも意識してしまう。
 大体、ここは二人で入るようには出来ていないのだ。
「なんで…?」
「………」
「あ、や、か…?」
 なんだか様子がおかしい。
 初佳はなんだか切なそうな表情で、やよいに歩み寄ってきた。
 後ずさるやよい。しかしそう広くないここで、その行動は大した意味を成さない。
「やよい」
 初佳はそう呟くと、やよいの肩に手を置き、唇を合わせた。
「……!!」
 反応できない。けれど、反射的にやよいは初佳を突き放した。
 初佳は少しだけよろけたが、すぐに体勢を立て直す。
「初佳…?」
 何度目か。やよいはまた初佳の名を呼んだ。
「ど、どうして…?」
「それは…私が町田初佳だから」
 これは俗に言う『告白』と思っていいのだろうか。
 でも、今までそんなそぶりを初佳は見せなかったし、やよい自身意識したことはなかったのに。
「……」
 再度初佳が唇を重ねてきた。

 今度は、やよいは拒絶できなかった。
 なんだか、こうなることを望んでいたような気さえする。
 けれどそれは気のせいで、この場の雰囲気に流されているだけなのだと、やよいは分かっていた。
 でも今は、こうしているのが自然な気がして。
「ん…ふ…」
「ふぁ…んん…」
 お互いに舌を突き出し、重ね、絡めあう。
 ディープキスなどしたことのないやよいだったが、ただ思うままに口を動かした。
 しばらく続けていて、初佳はやよいの胸を触った。
「ぁ…」
「すごい…こんなに大きい…柔らかくて、ぽちゃぽちゃしてる」
 同学年の同性にはやよい程大きい胸の女の子はいなかった。
 いつも羨ましがられて、けれど自分自身はそれほど良いものだとは思わない。典型的なパターン。
 それがいま、友達の手で弄ばれている。捏ねられ、揺り動かされている。
「ぁ…ぅぁ…」
「…気持ち良いの?」
「はぁ…ぅ…」
 やよいは返答するべきか困ったが、すぐに小さく頷いた。
「そうなの…」
 そう言って、初佳はやよいの手を自分の胸に導いた。
「あや…」
「触って…私のは、やよいほど大きくないけど…」
 やよいは言われたとおり、手の中にある柔らかな果実をそっと揉んだ。
 確かにやよい程ではないけれど、それでも同世代の中では魅力的だ。
 形が良くて、さわり心地が素晴らしく、そしてなにより柔らかい。
 しばらく無言でお互いの乳房を弄びあい、喘ぎあう。
 そして二人が相手の胸の頂を見つけて触ったのは同時だった。
「ぁぁ…」
「あぅ」

 少し気まずい空気が漂ったが、すぐに行為を再開した。
 小さくて、かわいらしい色をした初佳の乳首。
 やよいも触られていて、声が漏れていたが、それでも夢中になって愛撫した。
「ん…ふ…」
「あ、んぅ…あっ」
 気がついたのだが、自分の反応と初佳の反応が違う。
 それは当たり前のことかもしれないが、それでも初佳の方が少し声が大きい。
 やよいは指での愛撫を中断し、初佳の乳首を口に含んだ。
 初佳が驚いたように体を震わせたのが伝わってくる。
 やよいは小さな突起を舐めて、吸った。
 口の中で乳首は硬度を増し、ほんの少し大きくなった。
「あ、あぁ…」
 息を漏らす初佳。いたたまれなくなったのか、やよいの頭をかき抱いた。
「ん…苦しい、初佳…」
「あ、ごめん…」
 開放されて、また見詰め合う二人。
 自然と引き寄せられ、唇を重ねた。先ほどよりも激しいキス。
 シャワー室には、二人が唇を貪りあう音が響いた。
 長い間そうしていて、不意に唇を離す初佳。
「こんどは、わたしが…」
 なんだか呂律が回っていない。
 でもきっと自分もそうなのだろうとやよいは思う。
 初佳はやよいの体を立ったまま壁に押し付けると、手を下半身に移動させた。
 そして、やよいの性器に触れる。
「あ、あや…ふぁ」
 指で性器の周りをなぞられた。そのまま合わせ目の部分を擦られる。
「んぁ、ふぁ、や、ぁ…」
 そしてそこを開かれた。最も敏感な部分が外気に晒される。
 初佳はそこに容赦なく指を這わせると、膣の入り口を指で突付いた。
「ん…やぁ…」
 触られている。自分以外には触られたことのない部分が。
 それも相手は女の子。友達。

 その禁忌な事実が、やよいに興奮を与える。
 それは初佳にとっても同じなのか、さらに愛撫が大胆になった。
 少し硬くなった、最も敏感な場所。
「ん、だ、め、そこ…」
 それでも初佳は止めない。けれど、強すぎる愛撫はせず、絶妙な力加減で。
 陰核の周りを撫でられ、そしてその部分を押し込まれるように触られた。
 初佳は快感に絶えるやよいの顔をじっと見つめていた。
「う、あ、も、だ、めぇ…」
 耐え切れず、やよいはその場に座り込んだ。
 絶頂に達したわけではなかったが、膝が言うことを聞いてくれない。
「やよい…きもちよかった?」
 そう尋ねられ、やよいは恥ずかしさのあまり顔をさらに赤くした。
「わたしも…してほしい…」
 初佳はそう言って、同じように座った。
 やよいには初佳の意図が分からなかったが、構わずに初佳はやよいを優しく組み敷いた。
「あ…」
 しかし、すぐに体勢を入れ替え、お尻をやよいの顔に向ける。
「あ、あや、か…」
 どうすればいいのだろう。
 目の前には初佳の髪の毛と同じ色の茂みがあって、シャワーを浴びたように濡れていた。
「…なめて」
 初佳はそう言って、やよいの性器に口付けた。
「あ、そん、なぁ…あぅ」
 今度は両の指で開かれ、直に唇が押し当てられる。
 先ほど弄られた膣を、今度は舌で舐められた。
「んや、あ、はぁ…!」
 考えられない快感。先ほどの余韻も残ってすぐに達してしまいそうだった。
 けれど、初佳の行為に答えてあげたくて。
「あ、あぁ…!」
 やよいは同じように、初佳の閉じられた部分を広げようとしただけなのだが、触れただけで初佳は声を荒げた。
 自分よりも感じやすい体なのだろうか。
 やよいには初佳の事がいじらしく思えて、性器を舌で舐め上げた。

「あ、ふぁぅ、は、ぁぁ…!」
 自分がされているように、舐める。溢れてくる体液を味わう。
 初佳は声を上げて、快感に悶えた。
 けれどそれに耐えながら愛撫を続けてくる。
 だからやよいにも絶頂は近かった。
 腰から下が痺れている。今までの人生では感じたことの無かった感覚。
 すると、初佳の小ぶりなお尻がすこし痙攣を始めた。果ててしまいそうなのだろう。
「初佳…私も、すぐに、ぁぁ…!」
「やよい…やよい…!」
 やよいは自分が果ててしまう前に初佳を導いてあげたくて、唇を強く押し付けた。
 その気持ちはお互いに同じだったのか、
 二人は全く同時に、相手の一番敏感な場所を舐め上げた。
「ぁ…ふぁ…!」
「あ、あ、ああ…!」
 その瞬間、視界が真っ白になって、なにも考えられなくなった。

 部屋中が良い香りで満たされている。
 やよいは目の前でコーヒーを入れる初佳をずっと見詰めていた。
 ボンヤリと考える。
 いま私が初佳を見詰めている視線は、恋人に向けるような視線だろうか。それとも。
 それに私はレズだったのか。今までそんなことを自覚したことはなかったが、
 あそこまでしておいて否定は出来ない。
 やよいには少しショックだった。でも、不思議とそれと同じくらい嬉しかった。
 初佳は無表情。本当に、表情が無い。何かを考えているのか。

「やよい」
「なに?」
 声をかけられたので、反応した。
 声をかけた初佳の表情は動かない。
「コーヒー飲んだら…練習に付き合ってくれない?」
「練習?」
「うん。今日の本科生とやった訓練。あれを私達二人でやるの」
 初佳の表情が動いた。
 こちらを見てほんの少しだけ微笑んでいる。
「でも…そんなこと出来るの?」
「短時間だけだもの。教官に一言言えば大丈夫よ」
「…うん。分かったわ」
 同意してみたものの、やよいに初佳の心中は図りかねた。
 突然どうしたのだろうか。さっきの行為だってそうだ。
 なにかきっかけになるような出来事が最近あっただろうか。
 考えを巡らせては見るけれど、結局思い至らなかった。
 だけど、一つだけ。
「初佳、私ね、思い出したの」
「何を?」
「ステルヴィアに来た理由」
「…どうして?」
「後で、教えてあげるわ」
 そう言って初佳に笑みを向ける。
 だが初佳は何も言わずに、自分で入れたコーヒーを飲んだ。
 すると僅かにその目が細められる。それは微笑んでいるようにも見えたし、あるいは。
 やよいも一口飲んでみる。
 意外にも、とてもおいしかった。

                          完


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