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太陽の汗 526(351)様


私たちがナスカ宇宙港のメインロビーを走り出してから、どれほどの時間が経っただろう。
慣れないツインテールに結んだ髪の房がぱたぱたと肩口を叩く。
日頃の訓練の成果で、簡単に息が上がるようなことはないが、追いすがる津波のような喚声と
地鳴りのような足音が不安を掻きたてる。そんな私を励ますかのように、ジョジョは私の手を
しっかりと握り締め、すれ違う人々を巧みにかわしながら私を導いていった。

ロビーを出てプロムナードを抜け、ショッピングモールに走り込む。人の流れが密になり、
走るペースが落ちていく。人気の少ない通路を選びながら、私たちは幾度も幾度も角を曲がり、
次第に道に迷っていった。DLS訓練で三次元空間での位置感覚はずいぶん鍛えられたはずだが、
広大な平面を複雑に結ぶ無数の通路は私たちを混乱させた。そして久しぶりに味わう地上の
重力。角を回るたびにかかるモーメントの微妙な違いが体を緊張させ、消耗させる。
いやな汗が背筋を伝い流れた。あせりが手足をこわばらせ、反応を鈍らせていく。
友達のためとはいえ、なんでここまで…。不条理さにめまいがする。
ジョジョが何度も気遣わしげに私を振りかえる。彼自身、いっぱいいっぱいのはずなのに、
そんな素振りは見せず、懸命に私をリードしていく。その様子に、誇らしいような嬉しさを覚えた。

そうするうちに、背後からの足音がだんだんと近づいてくる。野次馬たちは幾手かに分かれたらしく、
喚声があらゆる方角から遠く近く押し寄せる。ほどなく、逃げる私たちの前方にも一団の人影が現われ、
口々に叫び始めた。
「いたぞ、こっちだ!」
いけない、挟まれる! そのとき、どこからともなく、低いがはっきりした声が届いた。
(左手の通路に飛び込め!)
この声は…笙人先輩だ。私たちは、とっさに従った。
そこから先は、何がどうなったのやらよくわからない。
(二つ先の角を右に)(突き当りを左に)
次々と出される指示の通りにひたすら走る。やがて追ってくる喚声に時おり悲鳴が混ざり始める。
背後を窺うと、野次馬たちが何故か急に転んだり、天井から水を浴びせられたり、白煙に巻かれて
せき込んだりしている。そうして追っ手の数は確実に減っていった。

いつの間にか足音や喚声が止み、気付くと人のいない殺風景な細い通路を走っていた。
(左手の植え込みの影に非常口がある。急いで入ってドアをロックしろ)
転げるようにドアをくぐる。中は暗い。ジョジョがコンソールを操作すると照明が灯った。
コンテナが雑然と積み上げられた、倉庫のような部屋にいた。さすがに息が切れる。
「…どうやら…撒いたみたいだね」
ジョジョがほっとしたような笑顔を見せる。
「…ああ…」
つられて私も笑う。

「身代わり、ご苦労だった」
いきなり背後から声をかけられ、ジョジョが飛び上がる。
「しょ、笙人先輩、いつの間に?」
「あの二人は無事に専用機で出発した。君たちはシャワーでも浴びて休んでくれ。宇宙局の賓客エリアに
部屋を用意した。荷物もそこに運んでおいた。この先に直通リフトがある」
そう言ってジョジョにルームカードを手渡す。
「君たちにも夕方の便のチケットを取ってある。まだ人目があるから外出は控えるように。その衣装は
借り物だから、部屋に置いて行ってくれ」
「ちょ、ちょっと待ってください。栢山は女の子だし、俺と一緒の部屋はまずいでしょ」
「君が紳士的に振舞えばいいことだ」
「そんな…でも…あの」
しどろもどろに笙人先輩に詰め寄ろうとする。私は、繋いだままになっていたジョジョの手を軽く引いた。
「私は構わない。行こう」
「ええっ?」
その短いやり取りの間に、笙人先輩は気配も残さず立ち去っていた。
「栢山……」
「晶、でいい」

リフトが上昇する感覚と共に、動悸が高まっていく。ジョジョも無口になっている。目的の階に着き、
フロアに出る。そこがフロントのようだ。ジョジョの手にしたカードに反応して、カウンター上の
ディスプレイに「チェックイン完了」の文字が浮かび上がり、部屋の位置が表示された。

木材を贅沢に使った重厚なドアを開けると、窓の大きな明るい部屋が私たちを迎えた。インカの石組みを
モチーフにした壁面は赤と金を基調にした幾何学的な文様の染織で飾られ、コロニアル風の落ち着いた
デザインの調度が品よく配置されている。窓からはナスカ高原が一望できる。宇宙港の広大な敷地の外側に、
はるか地平線まで、ほとんど起伏のない荒涼とした大地が広がる。遠く銀の糸のように光るのは川だろうか。
久々に見る吸い込まれそうに青い空。まだ中天に届かない太陽の周りをコンドルが悠然と舞っている。

部屋の中ほどに、私たちの荷物が寄り添うように置かれている。私は自分のカバンから手早く着替えと
ポーチを探し出し、部屋に備え付けのバスローブを一緒に持ってシャワー室へ入った。ジョジョは
窓辺のソファに所在なげに浅く腰掛けている。

髪を解き、念入りに体を洗う。ごく薄いメークを自然に仕上げるために、思わぬ時間を取られる。
あっさりした上品なデザインがお気に入りの下着を身に着け、バスローブをまとって部屋に戻った。
私は、ちょっと怖い顔をしていたかもしれない。ジョジョが慌てたように腰を浮かす。
「あっ、ええと…俺…着替えが終わるまでどっかに行ってるよ」
「いいんだ。ここにいる間は、こうしてくつろいでいたい。ジョジョも汗を流してさっぱりするといい」
「…おう…」

ジョジョがシャワー室に消えると、私は彼が座っていたソファに腰を下ろした。温もりがかすかに
残っている。テーブル表面にプリントされたコンソールを操作して、ライブキャストの音声放送一覧を
絞り込んでいく。ひなびたフォルクローレの旋律が低く流れ出す。過去数ヶ月の出来事が脈絡なく
思い出された。ステルヴィアに向けて地球を出発したとき、私は一人だった。それまでは、競争に
勝ち残ることばかり考えていた。同室のやよいは成熟した寛容な心の持ち主で、愛想のない私に
少しも怯むことなく、いつも行動を共にしてくれた。彼女のおかげで多くの新しい友人ができた。
友達思いで熱血のアリサ。気弱そうだが凄い努力家のしーぽん。伸びやかでまっすぐな心を持つりんな。

そして男子生徒たち。繊細で、どこか底知れぬ力を秘めたコータ。しーぽんの恋人。芝居がかった言動の割に、
根は真面目なピエール。飄々としていながら、いろんなことをよく見ている大。それから、それから…。

いつからだろう、彼は私の中で特別な場所を占めるようになっていた。

着替えを終えたジョジョの装いは、白い長袖のワイシャツに濃紺のスラックス、蝶ネクタイだった。
「それ…窮屈じゃないか?」
「これ、何か特別な機会のためにって親に持たされた服なんだ。一度も着たことなかったけど」
「そうか、ちょっと見違えた」
「何だよ、人を見かけで判断するなよ。中身を見てくれっつーの」
「私は…どちらも見てる」
「…俺も」
一瞬、私たちは互いに思いっきり意外そうな顔をして見せ、同時に吹き出した。
こんなふうに一緒に笑えるのが、とても貴重なことのように思えた。

私たちは、備え付けのディスペンサーでコカ茶を注文し、しばらく他愛のない雑談を楽しんだ。
お茶の効能か、それとも肩の荷を降ろしたせいか、ジョジョはフジヤマの中よりも饒舌になり、普段の
ペースを取り戻していた。その明るさが、私には嬉しかった。彼は無理に私を変えようとはせず、ただ
おだやかに、あたたかな光で照らしてくれる。初めてのDLS実習の後、私は自分の周りに高い防壁を巡らしていた。
そうやって、本当は助けがほしいのに、自分で自分を追い込んでしまうのだ。そんな時、彼はするりと壁を
くぐり抜けて、中に入ってきた。それは、彼の特別な才能だ。

「……それで、笙人先輩から作戦を聞かされたとき、ふざけるなって思ったよ。だけど、本音を言えぱ、
ちょっとだけ嬉しかった。ナスカに着いたらもう冬休みが終わるまで会えないと思ってたし、何だか
お姫様を守る騎士になったような気分だった」
「わがままなところはお姫様並か」

「…そんなこと言ってないよ。入学した頃から、俺はずっとかや…晶のことを見てた。いつの間にか、目で
追いかけてるんだ。最初のうちは高嶺の花だと思ってた。でも、晶が真剣に悩んだり、泣いたり、そんな
弱いところを見て、本気で好きになった。俺は成績もまだまだだし、チビだし、お調子者だと思われてるけど、
頑張れば晶のことを守れる、いや、どんなことをしても守りたいって思った。今日は、ささやかだけど、
それを実行できた。最後は笙人先輩に助けられたけどな」

「一緒に走れてよかったよ。これからも…傍にいてほしい」
そう言って差し出した私の手を、ジョジョは捧げるように持ち、手の甲に口付けた。
私たちはまだ、キスをしたこともなかったのだ。私は少しの間、目を閉じて、柔らかく、温かく、ちょっと
湿った唇の感触を味わった。目を開くと、ジョジョのこの上なく真剣な表情があった。
私たちは、手を取り合ったまま、どちらからともなく立ち上がり、狭いテーブル越しに、初めてのキスをした。
ジョジョの唇が、最初はおずおずと、ついばむように私の唇に触れる。それから、だんだんと触れ合う部分が
多くなっていく。細く口を開き、互いの唇をより深く重ねる。そこから乾いた喉を潤すような、深い満足感が
ゆっくりと体中に広がっていった。

どれほどそうしていただろうか。ふと唇が離れた拍子に、私はよろめいた。思わずジョジョの手を離し、
テーブルで身を支える。とたんに、壁のスクリーンが明るくなった。全裸で絡み合う男女が映し出される。
女の嬌声が部屋中に響き渡った。コンソールに変な風に手を突いていた。オンデマンドのアダルトコンテンツの
サンプル映像らしかった。頭に血が上る。慌てて操作しようとして、ティーカップをひっくり返してしまう。
バスローブの袖が濡れる。ジョジョが反対側から操作して、音と映像を止めた。
台無しだ! 自分が取り乱しているのが情け無かった。
「どうして恥ずかしいんだろう」怒ったような口調になった。
「恋人同志なら、いつかは……私だって、あんなふうに…」

「聞いてみたい」不意にジョジョが口を開く。いつもより低いが、しっかりした声。
「結婚した姉貴が言ってた。あんなものは男に都合のいい幻想だって。でも、二人が本当に愛し合って、
心と体を一つに合わせれば、とても大きな喜びが生まれるって。俺は晶を喜ばせたい。そのために、
できることは何でもするよ」
そうだ。簡単なことだ。私は彼を求めている。さっきからの行動を振りかえってみるがいい。
誰が見たって私から誘っているではないか。次の言葉は自然に滑り出た。
「じゃあ、抱いて。今すぐ」
ジョジョの手を取り、自分の胸に押し当てた。もう戻れない。

私たちは、今度はテーブル越しでなく、ぴったりと抱き合った。ジョジョは小柄な割に肩幅が広い。
骨組みもがっしりしている。やはり男の子だなあと思う。彼の温もりや鼓動が布越しに肌に伝わってくる。
ジョジョが踵を上げる。二度目のキス。ぎこちなく舌先を触れ合わせ、絡め合わせる。唾液が混ざり合う。
彼の手が私の背を撫でるように上下する。その手が胸の後ろあたりに差しかかったとき、
感じたことのない刺激に体がびくりと動いた。
「んっ…」声が漏れる。もう片方の手が下がり、腰の上あたりを押さえる。「…んんっ」
足の力が抜けそうになる。ぞくぞくするような感覚が背筋から胸へ、腰から足の間へと走る。
彼の背に回した腕に一層の力を込める。そうやって、互いの体をむさぼるように、長いこと抱きしめ合った。

そんな最中だったが、ちらりと頭の隅を別の考えがよぎる。私は秋から冬にかけて生理痛がひどく、
薬で排卵を完全に抑制している。そのことを告げるべきだろうか。
私の考えを知ってか知らずか、ジョジョは体を離すと、自分の荷物からピルケースを取り出し、
男性用の事前避妊薬を飲んで見せた。
それから私たちは手を取り合ってベッドへ向かった。

ジョジョが服を脱いでいる。筋肉の動きをぼんやりと目で追っていた。ペニスがトランクスを押し上げている。
私の心臓が飛び出しそうに大きく動いている。ふと、何の脈絡もなく最初のビアンカ実習のことを思い出す。
彼はパイロットスーツの腰にバスタオルを巻いていたっけ。少しだけ動悸が収まり、やさしい気持ちになった。

ジョジョの手がバスローブの襟にかかり、そっと押し開く。物心ついた頃から、父親にも肌を見せたことがない。
風呂にはいつも母親が入れてくれた。前が大きく開かれたバスローブはするりと肩から滑り落ち、足許に折り重なる。
胸から上が赤くなるのがわかる。両手で顔を覆ってしまう。ジョジョの手が、その両手を彼の肩へと導く。
目を閉じる。私たちは静かに肌を合わせた。張りのある、なめらかな感触。首筋に息遣いを感じる。
下腹部にペニス。固い。ジョジョの手が動き、私の下着を脱がせる。上。そして下。
「きれいだ」ちょっとかすれた声が聞こえた。
顔がますます火照る。頭がのぼせたようになり、そのまま崩れるようにベッドに座った。

長い口付け。ジョジョの唇が私の耳たぶに移動する。息とともに、熱い感覚が耳の奥から背筋へと流れ込む。
その流れを追うように、ジョジョの手が背中を動く。もう一方の手は脇腹から下腹部、足の付け根あたりを
丹念に触れていく。私の反応を探っては、感じるところを丁寧に撫でさする。唇は首筋をそろそろと這い、
肩から胸へと移動していく。その几帳面さが愛しかった。

やがて唇が乳房に辿り着く。触れるか触れないかくらいの軽さで突付かれると、乳首が立ち上がる。
恥ずかしい。けど感じる。疼くような、こそばゆいような感覚が、体の中にしみこんでいく。
唇が乳首を何度も軽く挟み、舌先が乳首の先にそっと触れる。
「ああっ、んっ」自分のものではないような声。さっき聞いた女優の声とも違う。
でも、確かに私の喉から出ている。それを聞かれるのは嫌ではなかった。
舌は弾くように、また円を描くように乳首を刺激し続ける。手の平がもう片方の乳房を包み込み、
やわらかくもみしだく。唇が胸の谷間を通り、反対側の乳房に移る。乳への愛撫はしばらく続いた。
私が背を反らせ、顔をのけぞらせると、ジョジョの腕が肩を抱き、私をベッドに横たわらせた。

なおも愛撫が続く。唇が、手が上半身を。別の手が下半身を。腿の内側や足の付け根を指先で押されるたびに、
腰の力が抜けたようになる。長い時間をかけて、その指が下腹部の繁みに入ってきた。割れ目をなぞるように、
揺らすように動き、中に押し入ってくる。…濡れている。
「嫌ッ」一瞬、指が止まる。「…じゃ…ないけど…あっ」

指が溝の中をすべり、陰部に達する。隅々まで、舐めるように触れていく。動き続ける指が、クリトリスを
かすめて通るたびに、体がびくっと震える。
「はっ、うう、んん」しびれるような感覚。これが快感というものなのか。
正直、そこに自分で触れたことがないわけではなかった。だが、そんな時とは比べ物にならないくらい、
激しく体が反応した。足ががくがくとなり、自分のものではないように、勝手に持ち上がり、暴れようとする。
ジョジョを蹴飛ばしてしまったらどうしよう、と心配になるくらい。自分が声を上げ続けているのをぼんやり意識する。
ただ嵐の海にもてあそばれるように、感覚の大波に身を任せる。自分がどこに連れて行かれるのか、まるでわからない。
両手でジョジョの腕をしっかりと握った。ジョジョの額から汗が流れ、私の胸に滴り落ちる。

不意に、指先が膣口にするりと入り込む。
「痛いッ」思わず悲鳴を上げてしまう。痛いというより、熱い。焼けた金属を押し込まれたよう。
「ごめん…」指が抜かれる。
「気に…しないで」
「…俺、うまくできないかもしれないけど…精一杯やってみる。やさしくするから」
答える代わりに、彼の腕を握る手に力を込めた。口付け。

それからジョジョは、固く閉じた私の両足に下から手を添え、膝を立てさせた。膝が左右に押し開けられる。
「見ないで…」そう言いかけるが、真剣そのもののジョジョの様子に、抵抗するのをやめた。
ジョジョの両手が、緊張をほぐそうとするように、私の下半身をさすり、ときおり軽い力で揉んでいく。
その顔が、下半身に近づけられる。性器に唇が押しつけられた。舌が陰部を外側から、内側から様々に刺激する。
見られていると思うとたまらなく恥ずかしかったが、与えられる感覚がいつかそのことを忘れさせた。
クリトリスに舌が触れる。押し上げたり、押し下げたり、揺らしたり、周囲を巡ったり。強く鋭い快感。
緊張が解け、自然に声が漏れる。それと合わせるように、指が膣に差し込まれた。やっぱり痛い。体が固くなる。
必死に悲鳴をこらえる。指が退く。愛撫は続いている。そんなことが繰り返された。指は徐々に奥へと入り込んでくる。

ずいぶんと時間をかけて、ついに小指が根元まで差し込まれるのを感じた。痛みと快感を与えられ続けて、
感覚が飽和したようになっている。でも少しは痛みに慣れたのか、私の内側を指が探るように動くのが
はっきりと意識できるようになった。指が抜かれ、また別の指と入れ替わる。心を決めた。
私は両手でジョジョの頭を挟み、持ち上げるようにして胸元へ引き寄せた。
「ありがとう。もう…大丈夫だと思う」
ジョジョの顔の下半分が私の体液で濡れている。私は自分からその唇を吸った。海水のような味がした。
唇に舌を這わせる。むさぼるような深いキス。

顔を離すと、しばしの間、見つめ合う。ジョジョの大きな瞳の奥で、いろんな感情がせめぎあっている。
それが一つの感情に収束していく。
(いい?) 目顔で尋ねられる。
(うん) 軽く頷く。微笑んだつもりだったが、うまくいったかどうかわからない。

ペニスの先が膣口に押し当てられる。測るように、じわじわと力が加えられていく。
ぬぷり。そんな感じで先端が入ってきた。
「あああぁああっ!!」
言葉にならない悲鳴がこぼれる。だめだ。指とはまるで太さが違う。無理だ。痛いいたいいたい…。
無意識のうちに体が逃げようとする。短く後ずさると、すぐに肩が枕に押し付けられ、動きを止められる。
パニック状態。頭が真っ白になった。

ふと気付くと、ジョジョの手が、乱れて顔にかかった私の髪をかき上げていた。
私はきっとひどい顔をしていたに違いない。
手が頬に回され、唇が吸われた。もう一方の手が、シーツを固く握り締めていた私の拳を探り当て、
やさしく包む。その手を握り返そうとしたが、自分でも驚くくらい力が入らなかった。

ジョジョは、私に体重をかけないように気遣いながら、そっと体を重ねてきた。
二の腕の筋肉が盛り上がる。肌が密着し、あたたかさが伝わる。汗のにおい。
パニックが収まっていく。大丈夫だ。彼のものはまだ私の中にある。どこも壊れていない。
呼吸を整え、気持ちを落ち着けて、言うべき言葉を探す。
「…続けて…」何とか言えた。

ジョジョの両手が、やや強い力で乳房に愛撫を加える。そうしながら、ごく僅かずつ、彼自身を
私の中へ沈めていく。少しでも体の力を抜こうと、愛撫に意識を集中する。
思ったほど長い時間ではなかった。ずしん、というような感じで、恥骨が圧迫された。
彼の陰嚢が陰部に触れる。熱いものが私の中を一杯に満たしている。
「ひとつに…なれた」ジョジョが囁く。
「愛してる…晶」
「ジョイ。私も」
固く抱きしめ合う。何故か涙がこぼれた。

ジョジョは労わるように私を抱きしめながら、ゆっくり体を動かした。それが出入りするたびに、
熱さが波のように高まったり退いたりする。次第に体が痛みに慣れて、いい感じに力が抜けてきた。
私は人形のように彼の動きに身を任せた。奥まで挿し込まれると、ペニスの先が子宮の入り口に
当たるのを感じる。鈍いが、何とも言えない不思議な感覚。

だんだんとジョジョの動きが速くなる。息が荒い。薄く目を閉じ、軽く眉間にしわを寄せている。
何かに一生懸命なときの表情だ。カーテンの隙間から入り込んだ日の光が、汗に濡れた産毛を
金色に光らせている。
「あ、晶、俺…もう…」切羽詰まった口調。
男の人がイクときなんだ。両腕を彼の背中に回して抱きしめた。

ジョジョの動きが止まった。がくがく、という感じで結合部が乱暴にゆすられる。体重がかけられ、
肌と肌が激しくこすり合わされる。
その瞬間。
ふわり、と体が浮き上がるような感覚。重力制御が切られたような。何もない空間を、ただ二人、
抱き合ったまま漂う。体の中にあたたかい液体が注ぎ込まれるのを感じる。
やがてゆるやかに上下の感覚が戻るが、ふわふわ浮いているような感覚は続く。
雲の上に寝ているようだ。

気が付くと、当たり前だが、シーツの上にいた。ジョジョが私の顔を心配そうに覗き込んでいる。
その背中に回したままの手にもう一度力を込め、微笑んだ。今度はうまく笑えたと思う。
何度目かの長い長い口付け。彼の手が確かめるように私の体を撫でていく。

しばらくして抱擁を解いた。ベッドの上で身を寄せ合う。ジョジョの腕が私の頭の下に差し入れられた。
その腕に頬を押しつけ、軽く口付ける。とても安らかな気持ちだった。

私たちは飽きることなく互いの顔や体を見つめ合い、また触れ合った。
それだけで驚くほど心が通じた。幸せだった。
このひとときが永遠に続けば、と切実に願った。

ふと、ファーストウェーヴの災害にも耐えて残ったというインカの石組みを思った。
人がこの世に残せるものは限られている。しかし形あるものだけがすべてではない。
人の想いは世代を超えて受け継がれていく。グレートミッションを支えてきたのも、
そうした想いだったのだろう。だから、今日愛し合ったように、これからもずっと
愛し合っていこう。子供ができたら、あたたかい家庭を築こう。今のこの想いを伝えていこう。

けれども今は、もう少し、二人だけの時間を味わっていたかった。
そして私たちは、寄り添ったまま、短い眠りに落ちていった。
                   −−− fin −−−


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